切手の豆知識


第23回「加刷切手」

改値加刷の例
(2銭5分切手を3銭切手に)
朝鮮(李朝) 1902年
植民地名を消して独立国名を加刷した切手
ギニア 1959年
国王の肖像を消したもの
イラン 1979年


 すでにでき上がった切手に、何らかの事情で、数字や文字、絵柄や記号などを、その切手の上に新たに押したり印刷することを、切手収集の世界では「加刷(かさつ)」と呼んでいる。そして、これらの切手のことを、「加刷切手(かさつきって)」と呼ぶ。
 「加刷切手」は、さまざまな理由で誕生する。英語では、誕生の理由の違いで、呼び方が異なる。
 たとえば、80円の封書料金が、88円に急に値上がったとする。しかし、88円の切手の製造が間に合わない場合、どのような策が取られるであろうか。今在庫のある80円切手の上に、急遽、「88円」であることを示した判を手で押したり、機械で印刷することが考えられる。88円切手である旨を示した切手ができ上がり、郵便局の窓口で88円切手として販売され、88円切手として郵便に利用されるのである。現代では、このようなことはありえないと思えるが、18世紀から19世紀の初めには、多くの国・地域で、実際に起きている。このように、もとの切手の額面(郵便料金として使える金額)の変更や寄付金の付加を目的とした改値加刷(かいちかさつ)は、「surcharge(サーチャージ)」と呼ばれる。
 一方、ある国の植民地であった地域が、新しい国家として独立を果たしたとき、新しい国家としての切手が発行される。しかし、その準備が間に合わなかったり、用意した切手の数が少なく在庫がすぐに切れてしまったとする。その場合、植民地時代に使われていた切手の上に、植民地名を消す棒線と新しい国家名を記した判を手で押したり、機械で印刷することが行われてきた。また、軍隊の兵士が専用に使う切手を、ほかの切手と区別するために、すでに発行されている切手の上に、軍隊専用の旨を示す文字や記号を、押したり印刷することもあった。これらは、既存の切手を利用し、臨時に作られるものである。英語で「overprint(オーバープリント)」と呼ぶ。政変が起こり、王政が倒れたとき、国王の肖像が図案であった切手には、その肖像部分が塗りつぶされる例もある。これも「overprint」といえる。
 加刷切手は、何らかの理由で、正規の切手を製造する金銭的、時間的余裕がなく、必要に迫られて臨時に作られる場合が多い。正規の切手が発行されるまでの橋渡しの役割だといえる。したがって、加刷された数が大変に少ない切手も存在し、それらは高値で取引される。そのことから、加刷切手の偽物が数多く存在する。

2005/05/28



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