切手の豆知識


第29回「透かし」

大正すかし 震災すかし 昭和すかし


 切手の偽造を防ぐ目的で、1840年にイギリスで発行された世界最初の切手“ペニー・ブラック”は、「透かし(すかし)」入りの用紙に印刷されていた。あらかじめ用意していた文字や図形の金属片を、網に固定して紙をすき、紙をここからはがすと、金属片の部分は他の部分より薄くなっている。そのため、紙を光にかざすと、この部分が透けて見える。これが、「透かし」の原理である。用紙の一部を、厚くしたり薄くしたりして作り出した、文字や模様なのである。紙に「透かし」を入れる技法は、13世紀後半に、イタリアの北部地方で始まったといわれる。そのボローニャの古文書館が所蔵している、1282年の日付が入った文書の用紙が、「透かし」の最古の例とされる。日本では、江戸時代の徳島の阿波藩が1679年に発行した藩札が、最初の例といわれる。用紙に透かしを入れることは、偽造を防ぐ一方法として用いられている。現代でも、日本の紙幣には「透かし」が入っている。
 日本で最初に「透かし」入りの用紙が使われた切手は、大正時代の普通切手である。大正2(1913)年9月、郵便使用を目的とした偽造切手が発見されたことが、契機になったと考えられる。この偽造切手は、明治時代の普通切手で、透かしは入っていない。大正になり、デザインが一新された普通切手にも、透かしは入っていなかった。偽造切手の出現にあわてた逓信省(郵政当局)は、大正3(1914)年から順次、普通切手を透かし入り用紙のものに変えていったのである。この「透かし」は、稲妻型の線が並んでいる模様で、切手収集家は「大正すかし」と呼ぶ。日本の切手にはこのほか、関東大震災(1923年)の影響で急遽作られた切手に用いられた、破線が連続した模様の「震災すかし」、1937(昭和12)年から1950(昭和25)年まで用いられた、半円と直線が組み合った模様の「昭和すかし」がある。1951(昭和26)年以降は、印刷技術の向上により切手の品質が高まり、偽造の恐れがないということで、日本の切手には透かし入りの用紙は使われていない。
 イギリスでは、1840年の世界最初の切手から1967年までの間、透かし入りの用紙が使われた。そして、その模様は25種類もある。今日、切手に透かし入りの用紙を使う国・地域はほとんどない。しかし、長年にわたり、多くの国・地域で透かしは用いられてきた。パイナップルや亀の模様もあり、各国・地域の歴史や文化を、そのデザインから感じられることもある。切手の「透かし」については、長野隆治『透かしの呟き』(制作:日本郵趣出版 2001年 改訂第二版 2004年)が詳しい。

2005/05/28



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