年の始めに新年の挨拶を述べる習慣は、平安時代には社会に広まっていたといわれる。明治時代になり郵便網が整備されると、年始の挨拶を記した年賀状を郵便で送る人が増えた。1882(明治15)年頃から、郵便局は年賀状の引受けと配達に多忙を極めたそうである。その要因は、年賀状の差し出し時期が一定でなく、配達日にも決まりがなかったため、大量の年賀状を効率的に処理できなかったという点にある。そのような中、1899(明治32)年12月に一部の郵便局で、年賀状を年末に預かって元旦に配達するサービスが試行された。翌年の12月には全国の郵便局で、このサービスが始まった。郵政は、1900(明治33)年10月1日開始の私製はがき制度が市民に浸透して、1901(明治34)年の年賀状は増大すると予想していたようである。郵便局にとってこのサービスは、大量の年賀状の配達効率を上げられるものであった。1906(明治39)年11月には、年賀特別郵便規則として制度化される。年賀状差出期間に郵便局の窓口やポストに入れた年賀状が、元旦に配達されるという、今日のシステムのもとである。
明治時代に年賀状配達の効率的なシステムが整ったのではあるが、年賀切手の発行はなかった。日本最初の年賀切手は、1936(昭和11)年の年賀状用にと、1935(昭和10)年12月1日に発行された。なぜ、年賀切手が発行されるに至ったのかは、確かな記録がなくわかっていない。当時の私製はがきに貼る普通切手の図案は、郵便料金と模様がデザインされたものであったが、年賀状のはがきに貼る年賀切手は、新年にちなんだ、おめでたい図案であった。多くの人が、年賀状には年賀切手を貼って差し出したい、という気持ちになったようである。その後、年賀切手は、1936(昭和11)、1937(昭和12)年と発行されたが、1938(昭和13)年以降は戦争の影響があって発行されなかった。太平洋戦争が終わり、社会が復興し始めた1948(昭和23)年12月に、1949(昭和24)年用の年賀切手が発行されてから、今日まで1年も欠かさずに年賀切手は発行されている。
1950(昭和25)年用から1953(昭和28)年用の年賀切手は、くじ付き年賀はがきの末等賞品(お年玉切手小型シート)を作るうえで発行された。そのため、その年の年賀状の差し出しが終了した後の発行であって、年賀状に使うためのものではない。1990(平成2)年用の年賀切手からは、お年玉くじ付きのものも発行されている。ちなみに、くじ付きの切手は、これが世界最初のものである。今日、年賀切手は、毎年11月頃に郵便局で発売される。年賀状に使うためだけの専用の切手ではないので、他の郵便物に貼って使用することもできる。
新年を祝う切手を世界で初めて発行したのは、南米のパラグアイで1931年のことであった。別の目的で作られた切手の上に、「1932年の新年を祝う」という文章を追加印刷したものである(加刷切手)。パラグアイは、この切手以外に新年を祝う切手を発行していない。新年を祝う年賀状用として、世界で最初に正式に発行されたものは、前述した日本最初の年賀切手である。年賀状を送る習慣を東洋の多くの民族が持っているのであるが、日本のように年賀状に貼るにふさわしい図案の切手を、古くから発行していた国・地域はない。韓国が1958年用から、香港が1967年用から、台湾が1969年用から毎年発行するようになり、1980年代になってから、年賀切手を発行するアジアの国・地域が増える。中国系住民の年賀状の利用を考えて、アメリカも1993年用から毎年発行している。また近年は、年賀状を郵便で差し出すこと(郵便利用)を増やそうという目的の他に、お土産品として購入してもらおうという目的で、多くの国・地域が年賀切手を発行するようになった。年賀切手の図案からは、その国・地域の伝統文化を知ることもできる。ベトナムでは、十二支のウサギがネコに変わっているので、1999年用の年賀切手の図案はウサギではなくネコであった。
2005/10/6
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