切手旅の第14回の舞台は、大分県唯一の村である姫島村です。
ご紹介する切手は、1987(昭和62)年1月23日発行の「昆虫」シリーズ第4集から「アサギマダラ」です。
姫島ってどんなところ?
姫島は、大分県国東半島の伊美(いみ)港から北へ約6キロの、瀬戸内海に浮かぶ離島です。東西7キロ、南北4キロ、周囲17キロほどで、ちょうど神奈川県箱根の芦ノ湖ぐらいの大きさです。私が訪ねた時は、レンタカーをフェリーに載せて姫島に上陸しましたが、特に足がなくても、島内は無料バスやレンタルエコカー、レンタサイクルで巡ることができます。
小さいけれど不思議がいっぱいの島、姫島(写真提供:姫島村)
島の歴史は古く、『古事記』では、「国生み」の際に12番目に作られた島として登場します。また『日本書紀』では、垂仁天皇の時代、今の韓国南部にあたるオホカラノクニの王子が、白い石から生まれたお姫様と結婚しようとしたが、姫はこれを拒んで海を渡って逃げ、姫島に上陸して比売古曽(ひめこそ)神社の神様になったとあり、これが「姫島」の名の由来といわれています。島にはこの姫にちなんだ“七不思議”もあり、ただの昔話ではないのでは、というロマンを感じさせてくれます。
七不思議のひとつ「拍子水」。炭酸水素塩泉で飲泉もできます
姫島の名物はふたつ、車エビと盆踊りです。港にある歓迎看板がそれを物語っています。
伊予灘と周防灘に面した姫島近海は潮の流れが速く、この潮流が多くの生き物を育みます。そう、ここは魚介類の宝庫。タイ、タコ、スズキ、カレイなど、姫島が誇る美味しい海の幸を食べることもまた旅の楽しみです。
島の魅力が描かれた歓迎看板
なかでも最も有名なのが、車えび。「姫島車えび」というブランドエビとして全国的に知られています。天然と養殖があり、天然車えびは全国3位の水揚げ量。縞模様くっきりで、尻尾のブルーもキレイ。大ぶりで身が締まり、プリップリッの歯ごたえがたまりません。
姫島車えびは、島の飲食店で食べられます。漁期は7/1~12/31
一方、養殖もさかんにおこなわれています。車えびの養殖は、江戸時代から昭和33年まで、島の産業を支えた塩田の跡地を利用しています。養殖ものは、天然ものに比べるとやや身が小さいですが、甘みが多く味が濃いのが特徴です。加工品の車えびシュウマイはお土産にも最適です。
しっかりとしたえびのうまみが堪能できる車えびシュウマイ
そしてもうひとつ、盆踊りも姫島の財産といえる貴重な民俗芸能です。伝統踊りと創作踊りがあり、伝統踊りは子供たちが踊るキツネ踊りや、大人の踊りのアヤ踊り、銭太鼓、猿丸太夫などがあり、地元の人によって踊り継がれています。
また創作踊りは新しく作られる踊りのことで、ユーモラスな動きや趣向を凝らした衣装などで、観客を楽しませてくれます。新作でも踊り継がれていくと、やがては伝統踊りになるということで、盆踊りは歴史が紡がれ続ける現場ともいえます。
白塗りに白シャツ、白パッチ姿の子供たちがなんともかわいいキツネ踊り(写真提供:姫島村)
この盆踊りのルーツは、鎌倉時代の念仏踊りといわれており、文化庁の「国選択無形民俗文化財(※1)」に指定されています。鎌倉時代に法然上人が讃岐に流された時に、地元にあった雨乞いの踊りに、台詞として念仏を唱えさせたことから始まるとされています。この念仏踊りが、盆行事と結びつき、盆踊りになったという説が有力です。
逞しい男性と淑やかな女性の組み合わせがおもしろいアヤ踊り(写真提供:姫島村)
祭りは毎年8月14日から16日までの3日間開催され、踊り手は村内7カ所の盆坪という踊り場を巡って踊り歩きます。この間に披露される踊りは30~40もあるそうです。リズムや口説き、盆足(足の運び)は同一で、踊りの所作と衣装などが違うだけでこれほどのバリエーションが生まれるとは驚きです。
踊り子はもちろん、観客の村民も実に楽しそう。残念ながら今年も盆踊りは中止だったとのこと。こんな風にまたみんなで輪を囲んで踊れる日が、早く戻ると良いですね。伝統よ、コロナに負けるな! そう応援せずにはいられません。
14・15日はフェリーも遅くまで運行し、本島からもたくさんの人が見に来るそうです(写真提供:姫島村)
そんな姫島に春と秋に訪れる飛来者、それが今回の切手旅の主役「アサギマダラ」です。きれいな見た目から受けるイメージと異なり、なんと2000キロもの距離を旅するタフな蝶です。姫島を長距離移動の中継地としており、飛来数は1000頭以上にもなるのだとか。アサギマダラが乱舞する光景はまるで夢の世界! 春はスナビキソウ、秋はフジバカマの蜜を求めて飛来し、これだけのアサギマダラが集まるのは日本でも姫島だけといいます。
一度見たら忘れられない、アサギマダラが乱舞する光景。アニメ『鬼滅の刃』の
登場人物の傍らにいつも飛んでいる蝶ということでも有名になりました(写真提供:姫島村)
大きさは8~10センチほどで、北は北海道の渡島(おしま)半島、南は与那国島で観察されていて、実に2000キロ以上を3~4ヶ月で移動します。どの位の距離をどの位の速さで移動しているかなど不明なこと多く、研究者や愛好家が翅にマーキングをして、生態を調べています。姫島では毎年、小学6年生が授業の一環でマーキング。姫島でマーキングした個体は、能登半島の珠洲市、福島、群馬、埼玉、静岡、鹿児島や沖縄の島々で確認されているそうです。
※1 重要無形文化財に指定されていないが,我が国の芸能や工芸技術の変遷を知る上で重要であり,記録作成や公開等を行う必要がある無形の文化財について,「記録作成等の措置を講ずべき無形文化財」として選択し,国が自ら記録作成を行ったり,地方公共団体が行う記録作成や公開事業に対して助成を行っている。(文化庁ホームページより)
「昆虫」シリーズとは?
では、アサギマダラが描かれた「昆虫」シリーズについて見ていきましょう。
1986~1987年にかけて第5集まで発行されたシリーズ切手で、1集につき2種連刷が2組の計4種で、5集合計で20種の昆虫が取り上げられました。
原画作者は郵政省技芸官の森田基治氏で、シリーズすべてを一人で担当。寸法は28×36.5ミリ、シート構成は20面(4×5枚)、発行枚数は切手1種あたり1650万枚(連刷で3300万枚)でした。
切手発行の目的について、当時の郵政省郵務局・切手室長の小椋嘉昭氏は、
「我が国では、森林の開発、市街地の拡大が急速に進んだ結果、自然が少なくなり、現在の子供達は、昔のように“チョウ”を追い、“カブト虫”と遊ぶ楽しさを知らなくなっています。このような状況の中にあって今回の「昆虫シリーズ」は、子供の夢を育てるとともに、自然保護思想を普及する一環として意義深いものと思います。(中略)
具体的な題材の選定については、現在、環境庁自然保護局・国立科学博物館などと打合せをいたしておりますが、選定の基準としては、
①日本の固有種、又はそれに近いものの中で色、形等が美しく変化に富んでいるもの
②日本の固有種として貴重であり、天然記念物等の指定を受けているか、又はそれに近いもの、
などが考えられます。」『切手』1986年3月1日号より
としています。
アサギマダラが登場するのは第4集で、①ミヤマクワガタ②オニヤンマの2種、③アサギマダラ④ヤンバルテナガコガネの2種の組み合わせで発行されました。
版式刷色は、①②はグラビア4色(黄、赤紫、明るい緑味青、暗いオリーブ灰)、凹版1色(黒)、③④はグラビア4色(鈍い黄、明るい赤紫、明るい青、暗い灰)、凹版1色(黒)で、表現されています。
「昆虫」シリーズ第4集 上段が①②、下段が③④
シリーズ通して原画作者は森田氏の予定でしたが、実はこの第4集の①②だけ作者が違い、①は木村学氏、②は吉川光徳氏(共に大蔵省印刷局技官)が担当しています。なぜ? と思い、当時の『郵趣』を見てみたら、答えが出ていました。ちょうど第4集の制作時期に、森田氏が水疱瘡に罹患したため、治るまで発行時期を見合わせようとしたものの周囲の状況が許さず、大蔵省の技官に依頼して発行にこぎつけたということだったようです。
本物のアサギマダラ(写真提供:姫島「アサギマダラを守る会」会長の
中城信三郎氏所有の写真を訪問時に筆者がコピー)
切手と写真の「アサギマダラ」、比べてみるとその模様や色合いなど、忠実に表現されていることがわかります。
そもそも、「第16回国際昆虫学会議記念」(1980年)や「自然公園50年記念」(1981年)「動物園100年記念」(1982年)、「特殊鳥類シリーズ」(1983-84)など、動物の切手のデザインを多く手掛け、その実力には定評のあった森田氏ですが、今回の「昆虫」シリーズについて『日本フィラテリー』1986年11月号にインタビュー記事が掲載されていました。
「〈昆虫シリーズ〉の原画を担当した切手室技芸官 森田基治氏に聞く」
●ときには生息地に足を運んでデッサンも
森田さんの作品は、何といっても緻密な描写が最大の魅力だが、そのための下準備は大変なものだ。博物館や専門機関に取材し、写真・標本などの資料で生態を徹底的に調べる。「生きているものを直接みることを原則にしている」という森田さんは、ときには生息地まで出かけて行ってデッサンをする。何気なく描かれたような背景の絵にも、こんな苦労が隠されているのだ。今回の昆虫は、ものがものだけに行って見るというわけにもいかず、主に標本を活用することになったそうだ。
動物の生態画を描くポイントは、と聞くと即座に、「私が描くのは、厳密な意味では生態画ではないですよ」という答えが返ってきた。「実際は美しい昆虫ばかりじゃない。しかし、切手というと誰でもきれいな絵を想像しますよね」。生態学的な要素はキチっと押さえたうえで、切手の図案としていかにきれいに表現するか。デザイナーとして、それが一番苦心するところだという。
●趣向を凝らしシリーズに一貫性を持たす
シリーズものには、テーマやデザインの面で何か一貫性のあるものを持たせるようにしている。「単発の記念切手とは違い、時がたっても通用するものでなければならない。海外に日本を紹介するという面もありますから、欧文書体にも気をつかいます」。
今回は、〈高山植物シリーズ〉と同様に、印面の角を丸くし、“NIPPON”の文字に独特の書体を取り入れた。このほかにもうひとつ、このシリーズで初めて試みたパターンがある。気がつかれた人もあるだろうが、昆虫の全体を描かずに一部をトリミングして描いていることだ。「トリミングをすることによって画面に広がりができ、昆虫に動きが出てくる。印面の枠にとらわれず、細部まで描き込めるという利点もある訳です」。
このシリーズを手がけるとき、自分で見られる範囲の世界の昆虫切手には全部目を通した。それらは全体が描かれていて、トリミングされたものはほとんどなかったという。
原画製作の数々の苦心談を語ってくれた森田さんは、最後にひとこと。「この切手の絵を見て、自然保護に少しでも関心を持ってもらえたら、それが一番嬉しいですね。」
切手を見ると、確かにどの昆虫も一部がトリミングされています。それによって標本的な静のイメージから、印面の中に昆虫が入ってきて、そして今にもその外に逃げて行ってしまいそうな動きを感じさせる切手になっているんですね。定点カメラで観測しているような気分になります。すぐ逃げちゃいそうだからこそ、じっと集中して見てしまう、そんな視線を惹きつけるデザイン力は流石です。
さてこの「昆虫」シリーズ、1987年3月の第5集の発行と同時に、小型シートも発行されました。第1集のウスバキチョウ、第4集のアサギマダラ、それに新しくクモマツマキチョウとオオムラサキのオリジナル2種(額面40円)を加えた、チョウだけの小型シートです。デザインは切手・シート地ともに森田基治氏、発行枚数は400万枚でした。なお、既発行のウスバキチョウとアサギマダラとは切手用紙のすき目の方向や、グラビアの刷色が微妙に異なるため、単片にばらしても両者の識別は付くように工夫されています。
この発行を持って、「昆虫」シリーズは終了したように見えたのですが…。
1987年8月、突如、郵政省は全国版「ゆうペーン・蝶(表紙付き)」「ペーン・蝶(表紙なし)」の発行を発表します。発行日は1987年9月30日で、小型シートのウスバキチョウとクモマツマキチョウ、および、アサギマダラとオオムラサキを、それぞれ5枚ずつ組み合わせた2種類。発行枚数は各100万冊で、表紙デザインは森田基治氏です。
個人的には今回の主役のアサギマダラと、日本の国蝶・オオムラサキの組み合わせはちょっと気になりますが、こんなにたくさん昆虫シリーズが出されると、収集家の皆さんは大変だったでしょうね。
そしてさらにその2年後、1989年4月6日に郵政省から発売されたのが「おもしろ切手帳」と「CDケース型ストックケース」です。「昆虫」シリーズの当初の発行目的にあった“子供の夢を育てる”に応えるように、小中学生に切手収集の楽しみを知ってもらうための郵趣商品として販売されました。
「おもしろ切手帳」は、「昆虫」シリーズの10種の切手のほか、図案となった昆虫の解説や迷路ゲーム、切手拡大クイズなどが盛り込まれた小冊子仕立てになっていて、1部200円と、子供でも買いやすい価格。と、ここで子供達以上に(?)食いついたのが収集家のみなさんでした。この「おもしろ切手帳」にセットされた昆虫切手が、日本初のオーダーキャンセルだったのです。オーダーキャンセルとは、郵政当局があらかじめ消印を印刷して販売する使用済切手のことで、額面に係わらず安く販売できることから主に東欧諸国で広く作られてきました。
「昆虫」シリーズのオーダーキャンセルは、フランスのプリキャンセル切手に似たスタイルで、印面右下に弧状に“JAPAN”と加刷(後から印刷)しています。未使用のシートに加刷しているので裏糊もついていますが、この“JAPAN”の加刷を持って使用済となるので、郵便や記念押印に使うことはできません。使用済切手のセットなので、10種セットの小冊子仕立てでも、200円で買うことができたんですね。
「CDケース型ストックケース」のほうは、3段のポケットがついて切手を収められるようになっているCDケースサイズのカードが7枚と、切手収集の楽しさを解説した小冊子「切手入門」が入っており、1部250円でした。記念切手1年分が収納できるということで、切手収集家への道の第一歩を踏み出せるようなセットです。
たくさんの切手や郵趣商品が発売された「昆虫」シリーズ。いま見てもその美しさは色あせず、私も「アサギマダラ」をはじめ、少しずつ集めています。生きている昆虫はどうしても怖いのですが、切手なら動かないから大丈夫(笑)。安心して収集できます。
不思議がいっぱいの島めぐり
ひらりと舞う訪問者にもであえるかも!
それでは姫島に上陸しましょう。
私が姫島を訪れたのは10月の頭。学生時代に教授から一度訪ねてみると良いと勧められ、あこがれ続けていただけに、ワクワクしながらの訪島でした。伊美港からはフェリーで20分ほど。地元の中学生が誰かのお迎えなのでしょうか、歓迎のボードを持って港に並んでおり、その姿を見ただけで心が和みます。
10月中旬とされるアサギマダラの飛来にはまだ少し早い時期ですが、まずは秋の飛来地である金地区のフジバカマの群生地に行ってみました。
フジバカマの群生。春は海沿いですが、秋は内陸なので、写真映えするのは春の方かもしれません
蕾はだいぶ膨らんでちらほらと開花し、アサギマダラを待つばかり。目を閉じて、アサギマダラの舞う様子を想像します。ここで休息をとったアサギマダラは暖かい南の地へとさらに旅を続けます。そして旅の途中で世代交代をして、翌年5月上旬~6月上旬頃、みつけ海岸に群生するスナビキソウの蜜を求めて飛来します。そして今度は涼を求めて北に旅立っていきます。
春の飛来の様子。飛来のニュースを聞いたら、「アサギマダラ鑑賞休暇」を取って島旅に出かけてみたいです(写真提供:姫島村)
鮭のように、同じ個体が大きくなって再び姫島に帰ってくるのかと思っていたのですが、次に来るときは次の世代のアサギマダラなのだそう。どうして教わりもしないのに、南へ北へ、旅をするのでしょうか。アサギマダラの謎を多くの人が研究するのも分かる気がします。
では、島内観光へ繰り出しましょう。
島を一周できる道路はありませんが、南側は「ひめしまブルーライン」が走り、シーサイドドライブができます。レンタルエコカーは、姫島エコツーリズムの一環で始まったサービスで、太陽光を使った電気自動車をレンタルできます。島内は坂が多いので免許があるなら、レンタサイクルよりエコカーの方がオススメです。
レンタルエコカーは1人乗りから7人乗りまで用意されています。風が心地よさそう!(写真提供:姫島村)
島内には七不思議が点在しているので、これを辿りながらあちこち見て回るのが、効率的です。
七不思議一つ目は、北西の観音崎にある千人堂。馬頭観世音を祀った小さなお堂なのですが、大晦日の夜に債鬼(借金取り)に追われた善人を千人かくまうことができるという謂れから、千人堂といわれています。わずか2坪ほどのお堂に千人は無理でしょう、とは思いますが、七不思議なのですから、もしかするともしかするかも? 今でも村の人は、大晦日にお参りすると借金取りから逃れられると言い伝えているそうです。
断崖絶壁に立つ千人堂。今も地元の漁師さんは海上でこのお堂を目印にしているそうです
そして、この千人堂が建つ観音崎は、なんとすべて黒曜石でできています。旧石器~弥生時代にかけて、矢じりなどの道具の材料として使われた黒曜石は、当時の人々にとって貴重な資源。姫島産の黒曜石は、九州をはじめ四国や中国地方の遺跡からも出土しています。地中ではなく、このような露天の黒曜石はとても珍しく、日本では北海道の十勝と、姫島の観音崎にしかありません。2007年7月には、『姫島の黒曜石産地』として国の天然記念物に指定されており、考古学ファンの私は、舐めるようにじっくりと見入ってしまいました。
よく見かける黒曜石は真っ黒ですが、姫島の黒曜石は乳白色から灰色掛かった色をしています
さて、七不思議めぐりに戻りましょう。
二番目は、観音崎の東の沖にある「浮須」です。沖合の小さな洲に漁業の神様がまつられていて「浮洲」と呼ばれており、どんな高潮や大時化の時もけっして海水につかることはないのだそう。実際に村の人に聞いてみましたら、少し前も異常潮位でかなり水位が高かったらしいんですが、やっぱり水には浸からなかったとのこと。不思議ですね。
海上に浮かぶ浮須。それほど高さはないように見えますが、なぜ浸からないのでしょうか???
三、四、五番目は島東部の金地区にあり、島名の起源にも出てくる比売古曽神社の神(お姫様)に由来します。
「逆柳(さかさやなぎ)」は、お姫様が柳の枝をつかってお歯黒を付け、その柳の楊枝を逆さまにして土に挿したところ、芽を出したといういわれから、逆柳といわれています。
「かねつけ石」の“かねつけ”とはおはぐろのことで、別名おはぐろ石とも呼ばれています。お姫様がおはぐろをつける時、石の上に猪口と筆をおいたところ、その跡ができたことからこう呼ばれています。確かに石には、筆と猪口のような丸と棒の跡があります。
そして、お姫様がおはぐろをつけたあと、口をすすごうとしたが水がなかったので手拍子を打ったところ、湧き出したという水が「拍子水(ひょうしみず)」です。今もコンコンと湧き出していて、飲むこともできますし、温泉として利用されています。
身だしなみに伴う不思議が3つもあるところが、さすがお姫様、という感じがしますね。
もっと巨木かと思いきや、意外と小ぶりな逆柳
猪口と筆の跡がしっかり残る、かねつけ石
湧水地では飲泉もできます。拍子水温泉は海を望む湯舟があり、のんびり過ごせます
残る二つの不思議は「浮田」と「阿弥陀牡蠣」です。
大昔、池に棲んでいた大蛇を誤って埋めてしまったため、大蛇の怒りで田が揺れるといわれる「浮田」ですが、現在は普通の田んぼといった風情。浮島のような構造でもないとのことなので、本当に揺れるのかは謎です。
浮田。恐る恐る足を踏み入れてみましたが、何も起こりませんでした
最後は「阿弥陀牡蠣」。姫島灯台の下には、海食洞窟がたくさんあり、西側の一番大きな洞窟には、海水につからない場所に牡蠣が群棲していて、食べると腹痛を起こすといわれています。その牡蠣が阿弥陀三尊の形に似ているので、阿弥陀牡蠣といわれているとのこと。牡蠣というからには、美味しかったらいいなぁと思ったのですが、残念です。洞窟は満潮になると小舟で中に入ることができるほどの大きさらしく、入ったことがあるという地元の方に伺いましたが、内部は暗く、阿弥陀牡蠣はよく見えなかったそう。不思議は不思議のままが良いのかもしれません。
達磨山火山の火口を使った車エビの養殖池(写真提供:姫島村)
ところで姫島は7つの火山でできた島で、ダイナミックな火山活動の痕跡も見どころのひとつ。島を含む海域一帯は、火山が生み出した神秘の島をテーマに「おおいた姫島ジオパーク」として2013年に日本ジオパークに認定されています。島のあちこちに噴火口跡があり、なかには火口を車えびの養殖場にしているところも! こんな利用法があるのかと驚きます。
この車えび、毎年10月には「姫島車えび祭り」が開催され、毎年多くの人で賑わいます。島の味覚を楽しむ“賞味会”がメインで、車えびの刺身、煮物、フライ、お味噌汁などがセットになったお弁当をみんなで味わいます。キツネ踊りやアヤ踊りも披露され、姫島の魅力がギュギュッと凝縮。コロナが落ち着いたらぜひ参加したい祭のひとつです。
秋のお楽しみ「姫島車えび祭り」。ちょうどアサギマダラも飛来している時期なので、観光には最適です(写真提供:姫島村)
そしてなんと!
島内観光の最後に島の東端にある姫島灯台を訪れた時に、その奇跡は起きました。私の目の前に、秋の最初の1匹が飛来! アサギマダラが飛んできたのです。フワフワとやわらかく飛んで、人を怖がらず、しっかりとその姿を見せてくれました。
翅にマーキングのない個体でした。一生懸命蜜を吸っています。どこからやってきたのでしょうか?
「お腹が空いて疲れ切っているのかも」
「がんばってよく辿り着いたね」
「よくぞ姿を見せてくれた!」
などの思いがあふれ、自然と涙が…。蝶を見て泣いたのは初めてでした(笑)。
よく観察していると、風にあらがうことなく、ふわりと乗るような飛び方をしており、この無駄のない飛び方が長旅のコツのように感じます。実際、ふわふわと上昇気流に乗って上空へと上がると、あとはそれほど羽ばたかず、風に乗って移動している姿を確認されているそうです。
翅の浅黄色の部分は薄く透けていて、ナイロンのような素材感に見えます。普通、蝶の翅には鱗粉が付いていますが、マジックでマーキングできることからしても、鱗粉は少なめのよう。蝶が嫌いという人はこの鱗粉がイヤ(実は私もそうでした)という人が多いですが、アサギマダラなら安心です。でも普通の蝶はすぐに翅がボロボロになってしまいますが、どうしてアサギマダラはこれほど長距離移動するにもかかわらず、翅が痛まないのでしょうか。
実物を見て、ますます興味がわいてきました。
皆さんももしもどこかの山で、アサギマダラの姿を見たら、そっと見守りつつ、翅にマーキングがないか、チェックしてみてください。インターネットなどで調べれば、どこから飛んできたかがわかるはず。思いがけない土地の人と交流が始まるかもしれませんよ。
風景印のお土産も忘れずに!
姫島灯台、千人堂、キツネ踊り が描かれた、姫島郵便局の風景印
今回は島唯一の郵便局、姫島郵便局から郵頼で風景印をいただきました。姫島灯台、千人堂、キツネ踊りと、姫島の名物が描かれています。見ているだけで、アサギマダラの姿や千人堂から見た海、プリプリの車えびが思い出されてきます。
ところで、こうしてきちんと姫島郵便局の風景印がはがきに押されていますが、実はこのはがきが入っていた封筒の方は別府郵便局の消印でした。これは、姫島郵便局では普通郵便の取集業務を行なわず、そのままフェリーで別府郵便局に送られ、ここで取集業務が行われる決まりになっているから。ですから、姫島に旅行に行った証として、姫島の消印入りのはがきが欲しい、あるいは送りたいと思った場合は、風景印の「記念押印」「差出消印」を営業時間内に姫島郵便局の窓口で頼みましょう。「まぁ風景印じゃなくても普通の消印でもいっか」とポストに入れてしまうと、別府に運ばれ、別府郵便局の消印になってしまいます。
日常でも、あそこのポストに投函したのに、どうしてここの消印? と思うことがありますが、こういう仕組みなのですね。旅行先からの記念の手紙なら、なおさら失敗したくないですから、営業時間内に窓口で依頼、と覚えておいてくださいね。
*****
今年の夏も、夏らしいレジャーを楽しめなかった方も多いと思います。そんな中、北へ南へと旅するアサギマダラをうらやましく思われた方もいらっしゃるのでは? 近くの山や高原にも飛来しているかもしれない、そう思うだけでちょっとワクワクしてきますね。もしも見かけたら、旅心をアサギマダラに託してみてはいかがでしょうか。
次回もお楽しみに。
※1 風景印とは消印の一種で、風景入り通信日付印の略称。大きさは直径36ミリ。郵便局のある地域の名所旧跡や特産品、ランドマークなどが描かれています。手紙やはがきを出すときに、郵便局員さんに「風景印でお願いします」といえば、風景印を押して配達してくれます。また、はがき料金(2021年現在は63円)以上の切手を貼ったはがきや封書、台紙を用意して「風景印の記念押印」をお願いすれば、風景印を押して手元に返してもらえます。これを再び投函・郵送することはできませんが、記念品として手元に残すことができるので、風景印を集めることを趣味としている郵趣家もたくさんいます。
※2 「郵頼」とは、文字通り郵便を使って風景印を頼む方法。どこに風景印を押印してほしいのかを記載した指示書とともに、63円以上の切手を貼った台紙(封筒でも官製はがきでもポストカードでも可)と返信用の封筒(宛先と84円切手を貼付)を添えて郵送します。指示書は端的に、明確な文章を心掛けましょう。「〇〇郵便局 風景印押印 ご担当者様」宛で、どこに、どう風景印を押印してほしいのかを図示し、日付の指定があれば明記します。どうして貴局の風景印が欲しいのか、などの細かな理由を長々と記載する必要はありません。「郵頼」の対応は、郵便局員さんが業務の合間に善意でやってくれることなので、わかりやすい指示書が好まれます。
【参考文献】
・『日本フィラテリー』1986年11月号 日本郵趣協会発行
・『日本フィラテリー』1987年2月号 日本郵趣協会発行
・『日本フィラテリー』1987年3月号 日本郵趣協会発行
・『切手』1986年3月1日 全日本郵便切手普及協会発行
・『昭和終焉の時代 1985-1988』(解説・戦後記念切手Ⅶ) 内藤陽介 日本郵趣出版発行 2009年12月
・『郵趣ウィークリー』1986年6月20日・24号 日本郵趣協会発行
・『郵趣ウィークリー』1986年12月12日・48号 日本郵趣協会発行
・『郵趣ウィークリー』1987年2月6日・5号 日本郵趣協会発行
・『郵趣ウィークリー』1987年8月21日・32号 日本郵趣協会発行
・『郵趣ウィークリー』1987年8月28日・33号 日本郵趣協会発行
・『郵趣ウィークリー』1989年4月7日・14号 日本郵趣協会発行
・『郵趣』1986年7月号 日本郵趣協会発行
・『郵趣』1986年9月号 日本郵趣協会発行
・『郵趣』1987年1月号 日本郵趣協会発行
・『郵趣』1987年3月号 日本郵趣協会発行
・『郵趣』1987年9月号 日本郵趣協会発行
・『郵趣』1988年6月号 日本郵趣協会発行
・『郵趣』1989年5月号 日本郵趣協会発行
・『ビジュアル日本切手カタログVol.1 記念切手編 1894-2000』 日本郵趣協会 2016年12月
・『風景印大百科 1931-2017 西日本編』日本郵趣出版発行 2017年5月
・『もの知り切手用語集』改訂版第9刷 日本郵趣協会発行 2019年1月
・『おもしろ切手帳 オーダーキャンセル切手 昆虫篇』 矢島稔、平岩道夫監修 郵便局発行 1989年4月
・電子パンフレット「瀬戸内海国立公園 大分県姫島」
・電子パンフレット「火山が生み出した神秘の島 おおいた姫島ジオパーク」
・電子パンフレット「おおいた姫島 食の素材集」
【参考ホームページ】
姫島村 https://www.himeshima.jp/
文化庁「無形文化財」https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/mukei/
【写真提供】
姫島村